「歯みがきが大事なのはわかっているけれど、口を触ると嫌がるので続かない」。犬や猫と暮らしていると、一度はぶつかる悩みです。
コーネル大学獣医学部によると、3歳を超えた犬の80〜90%に歯周病の何らかの要素があり、4歳を超えた猫の50〜90%が何らかの歯の病気を抱えていると報告されています。歯が白くきれいに見えていても例外ではありません。
この記事では、歯みがきが必要な理由、嫌がる子でも進めやすい慣らし方の5ステップ、歯ブラシ・シート・ペーストの選び方、そして家庭ではできないことをまとめます。
なお、この記事は一般的な情報です。口の中の状態や進め方には個体差があるため、気になる症状があるときや、持病がある・高齢の子の場合は、かかりつけの動物病院へ相談してください。
歯の表面につく茶色い歯石は目立ちますが、コーネル大学は、歯周病の主な原因は歯石ではなく歯垢(プラーク)だと説明しています。歯垢は細菌がつくる目に見えにくい膜で、歯ぐきの縁より上にも下にもつきます。これが歯ぐきの炎症(歯肉炎)を起こし、進むと歯を支える組織を壊していきます(歯周炎)。
歯垢が唾液などのミネラルを取り込んで硬くなったものが歯石です。硬くなる前の歯垢なら、家庭の歯みがきで落とせます。一方で、動物病院でクリーニングを受けた後も、数日のうちに細菌はまた歯垢をつくりはじめます。だから「毎日」が基本になります。
メルク獣医マニュアルによると、歯肉炎の段階であれば、適切に歯をきれいにすることで改善します。しかし歯周炎まで進むと元には戻らず、歯を支える組織は失われたままになります。犬で歯が抜ける最大の原因は歯周病です。
同マニュアルは、小型犬は大型犬よりも歯周炎の問題を抱えやすいこと、前歯より奥歯、下の歯より上の歯、舌側より頬側(外側)の面で悪くなりやすいことも挙げています。これは、後で説明する「どこを優先してみがくか」の手がかりになります。
すでに歯ぐきに炎症がある状態で歯みがきをすると、痛みを与えてしまい、その後ますます口を触らせてくれなくなるおそれがあります。次のようなサインがあるときは、歯みがきの練習を始める前に動物病院で診てもらってください。
口臭が強い
歯ぐきが赤い、腫れている、触ると出血する
よだれが増えた
前足で口を気にする、口元をこすりつける
食べるのに時間がかかる、フードを口から落とす
頭を傾けて食べる、柔らかいものばかり好む
好きだった噛むおもちゃを噛まなくなった
犬も猫も口の痛みを隠しがちです。コーネル大学は、こうしたサインに飼い主が気づく頃には、病気がすでに進んでいることが多いとしています。
コーネル大学が紹介している進め方を、5つの段階に整理しました。大切なのは、その段階を愛犬・愛猫が楽しみにするようになってから次へ進むことです。嫌がったら、1つ前の段階に戻ります。

合図の言葉を決める(「歯みがきタイム」など、毎回同じ言葉)。声をかけたら、唇の外側を指で1回なぞって、すぐにごほうび(おやつやおもちゃ)をあげる
唇を少しめくり、歯ぐきを指でなぞって、ごほうび
ペット用の歯みがきペーストを指につけ、匂いをかがせて舐めさせる。慣れたら、その指で歯ぐきをなぞって、ごほうび
歯ブラシをそっと加える。最初は数本の歯に当てるだけで終わりにする
すべての歯の外側を、ペーストをつけたブラシでみがけるようになったら完成
猫も同じ考え方で進められます。コーネル大学猫健康センターは、慣れるまでに時間がかかる猫もいるものの、多くの猫は最終的に歯みがきを受け入れられるようになるとしています。
メルク獣医マニュアルは、みがく(または拭く)のは歯の外側の面だけでよいとしています。口を大きく開けさせる必要はありません。唇をそっとめくり、歯と歯ぐきの境目にブラシを当てます。
時間が取れない日や、途中で嫌がりそうな日は、悪くなりやすい「上の奥歯の外側」を優先してください。
同マニュアルによると、毎日の歯みがきが最善ですが、歯ブラシを受け入れない犬でも、少なくとも2〜3日に1回ガーゼで歯を拭けば歯垢を取り除けます。指に巻いて使う歯みがきシートも、同じ使い方ができます。まずは拭くことから始め、慣れてきたらブラシに移るのもひとつの方法です。
歯みがきに使う道具は、大きく分けて歯ブラシ、歯みがきシート(またはガーゼ)、ペット用の歯みがきペーストの3つです。

小型犬や猫の口は小さいため、ヘッドが小さく、毛の柔らかいペット用の歯ブラシが扱いやすくなります。軸のまわり360度に毛がついたタイプは、ブラシの向きを気にせず歯と歯ぐきの境目に当てやすいのが特徴です。
人用の歯みがき粉は使わないでください。コーネル大学は、人用のものには洗浄成分やフッ素が含まれており、人は吐き出せても犬は飲み込んでしまうことを理由に挙げています。また、米国食品医薬品局(FDA)は、人用の歯みがき粉に含まれることがあるキシリトールが犬にとって危険であるとして、ペットにはペット用の歯みがき剤だけを使うよう呼びかけています。人用の歯みがき粉は、犬の届かない場所に保管しましょう。
ペット用のペーストは、飲み込むことを前提につくられているので、すすぐ必要がありません。チキンなどの味がついているものは、慣らし方のステップ3で「ごほうび」の役割も果たしてくれます。
歯みがきシートは指に巻いて歯の外側を拭くものです。指の感覚で力加減がわかるので、ステップ2〜3で口を触る練習をしている時期にも使えます。
歯垢や歯石への効果を審査している米国獣医口腔衛生協議会(VOHC)は、口の健康を保つ基本は毎日のケアで、最も確実な方法は歯みがきだとしています。そのうえで、噛むことも役に立つとして、デンタルガムを与えるときは、体重に合ったサイズを選ぶこと、飼い主が見ていられるときだけ与えることを、のどや消化管に詰まらせる事故を減らす方法として挙げています。
硬すぎるものには注意が必要です。メルク獣医マニュアルは、歯が折れる原因として、本物の骨、ひづめ、鹿の角、硬いナイロン製のおもちゃなどを噛むことを挙げています。
すでについてしまった歯石や、歯ぐきの下の歯垢は、家庭の歯みがきでは取れません。コーネル大学は、歯周病の予防には「家庭での毎日の歯みがき」と「動物病院での定期的なクリーニング」の両方が必要だとしています。歯ぐきの下まできれいにし、歯の状態を調べるために、クリーニングは全身麻酔をかけて行われます。
麻酔をかけずに歯石を取るサービスもありますが、日本小動物歯科研究会は、無麻酔での歯垢・歯石除去は危険であるという見解を公表しています。高齢や持病で麻酔が心配な場合も、事前の検査を含めて、かかりつけの動物病院に相談してください。
歯周病の主な原因は歯石ではなく歯垢。歯垢は毎日の歯みがきで落とせる
歯肉炎のうちなら改善できるが、歯周炎まで進むと元に戻らない
口臭・出血・よだれ・食べ方の変化があれば、歯みがきの前にまず受診
慣らし方は「合図→唇→歯ぐき→ペースト→ブラシ」。楽しみにするようになってから次へ
みがくのは歯の外側だけでよい。優先は上の奥歯
ブラシが無理なら、2〜3日に1回以上ガーゼやシートで拭く
ペーストは必ずペット用。人用の歯みがき粉は使わない
ついてしまった歯石は、動物病院で麻酔下のクリーニングを
歯みがきは、1日でできるようになるものではありません。今日は唇に触れてごほうび、それだけで十分な一歩です。毎日の小さな積み重ねが、愛犬・愛猫が年を重ねても自分の歯でおいしく食べられることにつながります。